【コメント】学校再開に向けて 公益財団法人日本修学旅行協会 竹内 秀一理事長より
- お知らせ
全国的な修学旅行の実施に向けて、公益財団法人 日本修学旅行協会の竹内 秀一理事長より
コメントが発表されております。
公益財団法人 日本修学旅行協会
理事長 竹内 秀一
学校再開に向けて
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面的に解除され、臨時休校していた学校が再開されることとなりました。学校は、休校による授業の遅れを補うため夏休みの短縮や7時間目の授業など、様々な工夫を行っています。なかでも学校行事のうち「運動会や文化祭、学習発表会、修学旅行など」については、文科省からの通知「新型コロナウイルス感染症対策としての学校の臨時休業に係る学校運営上の工夫について」(令和2年5月1日)で「感染の可能性が高い学習活動」とされ、授業時間の確保ということもあって、すでに運動会・体育祭や学芸発表会などを取り止めた学校も多くあります。ただし、修学旅行については、「取り止める場合においても、その教育的意義や児童生徒の心情等にも配慮いただき、中止ではなく延期扱いとすることを検討いただくなどの配慮をお願いしたい」と、文科省が出した「教育活動の再開等に関するQ&A」(5月21日時点)に記されています。しかし、その判断については「学校や教育委員会等の設置者」に任されているため、東京の世田谷区や板橋区のように今年度の修学旅行を「中止」とした教育委員会もあります。
学校の主な教育活動の基準を定めた学習指導要領では、修学旅行は、「特別活動」の一つである「学校行事」のうちの「旅行・集団宿泊的行事」(小学校では「遠足・集団宿泊的行事」)に含まれています。「特別活動」は「教科」の授業と同等に位置付けられていますので、学校行事も授業と同じく重要な教育活動であるといえます。特別活動の特徴は、集団活動、すなわち他者との関わりの中で学ぶこと、加えて学校行事では、様々な「体験的活動」を通して学ぶことが大きな特徴となっています。なかでも修学旅行や移動教室、遠足などの「旅行・集団宿泊的行事」は、「平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむ」(中学校、高等学校学習指導要領)とともに、長時間仲間と共に過ごし、旅行先の人々と交流する、すなわち生徒が集団の中で学び、社会と接することを通して学ぶ極めて貴重な学習機会となっています。大学で私の講座を受講している学生に中学・高校での一番の思い出を聞いてみたところ、「修学旅行」という答えがもっとも多く返ってきました。生徒たちにとって、修学旅行が「思い出づくり」の場であることはたしかですが、「学び」の場としての価値はそれ以上に大きいものであると思っています。
例えば、中学・高校の修学旅行における主な活動として常に上位を占めている平和学習では、沖縄や広島、長崎を訪れ、地上戦や原爆に関わる遺跡を巡り、資料館の展示を見たり体験された方々から当時のお話を聴いたり、といったプログラムが実施されています。こうした体験を踏まえ、生徒たちが仲間と「平和」について話し合うことを通して、教室での学習はさらに「深い学び」になっていきます。また、最近増えてきている農山漁村での民泊では、受入れ家庭の暮らしや生業をまるごと体験する中で生徒たちの視野は広がり、自分とは異なる価値観に触れることが自分自身を捉え直すきっかけになることもあります。修学旅行の場合、このような活動には必ず事前・事後の学習が伴っていて、現地での活動と併せ、一連の学習活動として進められています。このように、教室では実施することの難しい特別な「学び」を実践できる場が修学旅行なのです。そうした優れた「学び」の場が、感染症対策のために失われてしまうことは残念でなりません。もちろん、教科の授業とのバランスをとることも重要ではあるのですが…。
それでは「中止」ではなく「延期」とした場合、いつ実施できるのか、生徒の安全・安心は確保できるのか、同じ旅行先で同じ活動ができるのか、旅行先を変えるとこれまでの事前学習が無駄になる、キャンセル料はどうなるのか…。このような多くの課題があって修学旅行を「延期」するのは容易なことではありません。しかも、修学旅行は集団活動が基本であるだけに、「密集」や「密接」を避けるのはかなり難しいことと思われます。しかし、宿泊施設や見学施設、交通機関、旅行会社など修学旅行に関わる各方面では、それぞれに綿密な感染予防策を講じるよう努めています。学校は、それらとしっかり連携していくことが大切です。また、校外活動における安全管理の体制をこれまで以上に強化するとともに、生徒たちにはマスクの着用や手洗いの励行など、感染防止のための指導を徹底しなければなりません。たしかに、従来とは異なるレベルの手間がかかります。しかし、修学旅行には他の教育活動には代えがたい独自の意義があります。教育委員会や学校には、できる限り実施する方向で考えていただくことを、強くお願いしたいと思っています。
2020年6月1日
公益財団法人日本修学旅行協会HPより
竹内理事長発表文書【学校再開に向けて】
http://jstb.or.jp/publics/index/6/#block85