コロナ禍の旅行で学んだ思いやりの心
オンラインでの学習体験も視野に、沖縄へ行ける方法を模索
沖縄を修学旅行の場所に選んだ理由を教えてください。
私が奉職した頃から本校の修学旅行は沖縄でした。12年ほど続けてお世話になっているそうです。平和、命、自然を体験的に学べるという点で、かけがえのないところだと思います。
コロナ禍で、沖縄への修学旅行を決断した背景を教えてください。
中止、もしくは延期をするのが一般的な判断だったかもしれません。本校の例は外的要因にも支えられて実現した、あくまで一つの例としていただきたいです。個人的にはニュースを見る度に気持ちが揺らいでいましたし、ずっと不安でした。しかし生徒のためになんとか中止は避けたいという学校長の意向と、また旅行会社の担当者様も何度も熱心に相談に応じて下さったことで、簡単には諦められなくなりました。
飛行機やバスの換気機能など初歩的なことから教えていただき、予定している行程でどこが高リスクなのか、積立金の追加徴収なしでどんな代替案があるかを検討しました。また延期や中止の案も並行して検討しました。キャンセル料はいつ発生するのか、どの時期に延期すべきか、17クラスの宿泊先を確保できるのかなど、オンライン授業の期間にかなり打ち合わせを重ねました。
6月に沖縄県から「安心・安全な沖縄県へようこそ」と宣言が出たこともあり、10月中旬に実施できる可能性を最後まで残し、感染症対策の検討を続けるという判断になりました。オンラインの学習体験という例もありましたが、準備不足で17クラスの生徒に提供すると経験の質が下がってしまう懸念があり、可能であれば現地へ行くことを最優先に考えました。ただ、米軍基地内で感染が広まっているといったニュースを見ると、沖縄の正しい状況を把握しづらく、不安な日々が続きました。宿泊日数を減らすなど対策を検討して、なんとか保護者説明会で新行程と感染症対策を説明することができました。
各教科の担当者と力を合わせ、例年以上に力を入れた事前学習
事前学習ではどのようなことを調べましたか。
首里城の歴史について調べました。焼失した状態の首里城を見ることができたのは、貴重な経験だったと思います。何年後かに復元された首里城を見てみたいです。
ドラマの「さとうきび畑の唄」を観て、沖縄での戦争や、ガマの中での出来事について学びました。ドラマを観た後は、戦争があった沖縄はどうなっているんだろうと、ちょっと怖さを感じました。実際、沖縄へ行ってみると、温かい人が多く、空気もきれいでした。
コロナ禍の修学旅行ということで、例年以上に事前学習の必要性を感じました。
各科目での従来の展開に加え、沖縄戦の歴史資料をまとめたパネルを見つけて下さった先生や、コース別集会で沖縄戦について語っていただいた日本史の先生など、多くの先生方にご協力いただきました。英語科の10-17組担当では、映画「硫黄島からの手紙」を題材にした教科書後半の課を、2学期冒頭に扱いました。戦地から家族に手紙を送ることについて、英検を模した作文課題にも取り組みました。
事前学習のテーマは、教員が用意することがほとんどですが、今後は、生徒たちが自分でテーマを決められるように支援していきたいと考えています。今回新たに担任の先生方の呼びかけで、生徒たちが沖縄の有名人やおいしい食べ物、観光スポットランキングなどをまとめた新聞を作ったクラスでは、修学旅行を欠席する生徒がいませんでした。宿泊行事では級友との部屋割りなど今の人間関係も切実ですが、そうした次元を超えて沖縄に行く意義や目的を、事前学習を通じ生徒自身が見つけてくれたのではないかと思います。
人の優しさに触れた沖縄旅行
修学旅行での思い出を教えてください。
最終日に国際通りへ行ったときのことですが、県庁前の交差点にある土産店「おきなわ屋」に、「ようこそ 関東第一高校」と書かれていました。東京から来ている私たちが歓迎されているのが嬉しくて、とても印象に残っています。
初めて沖縄を訪れましたが、国際通りのお店の方が親切に、案内してくれてうれしかったです。あと、ビーチトレッキングをしたときにスタッフさんから生き物についていろいろ教えてもらい、金運UPの貝殻ももらいました。今もお財布に入っています。
ガマではガイドさんの話を聞きながら見学しました。灯りを消すと、水の音しか聞こえなかったので、すごく怖かったです。小さなガマにたくさんの人が避難していたと聞きました。すごく暑かっただろうなぁと思いました。
首里城へ行ったときに、玉城知事にサプライズでお会いできました。名刺も頂いて、素敵な思い出です。沖縄県の手厚い歓迎に感激すると同時に、私たちがご迷惑をおかけすることはあってはならないと強く思いました。生徒たちに沖縄で印象に残ったことを聞くと、「沖縄の人が好きだ」という答えが多かったです。地元の方々が、困難な時期に温かく関わってくださったのが嬉しかったみたいです。
次回は実現させたい、民泊体験や離島めぐり
もう一度、沖縄での修学旅行があるとしたら何をしたいですか。
今年はコロナの影響で、民泊体験をできなかったのが心残りでした。民泊は現在の教頭が自ら下見に出向いて取り入れたものです。学校でも大変思い入れが強く、生徒からも大変好評です。民泊は地元の方々とより近くでコミュニケーションを取ることができるので、体験させてあげたかったです。
離島に行ってみたいですね。
確かに私もガイドさんから、島によって方言や民謡など文化が全然違うと聞いたので、それを感じてみたいです。卒業生は、自分で沖縄のあちこちに行っているみたいで、よく自慢されますよ。
生徒の自己管理と、家族や関係者の協力で実現
今回、コロナ禍での修学旅行でしたが、どのように感じましたか?
修学旅行が決まるまでは、行けるかわからない状況だったので、自己管理だけはしっかりしようと心がけていました。沖縄滞在中は、ホテルや、旅行会社の方が、私たちの知らないところでも感染対策をして下さっていてとても感謝しています。安心して楽しめました。
新型コロナウイルス感染症が拡大して大変な状況でありながら、私たちを歓迎してくれてとても驚きました。受け入れ先が感染予防対策を徹底してくれたので、楽しむことができました。
感染症対策として学校で準備したことを教えてください。
オンライン授業から分散登校、一斉登校となりましたが登校時には手指や靴裏の消毒、検温が行われています。37度以上の熱がある生徒は登校できません。修学旅行前もPCR検査で陽性になった生徒はいませんでしたが、ちょっとした体調の異変に敏感になったり、ご家族が濃厚接触となった場合は結果判明まで登校を控えたりと、自己管理を求められて大変だったと思います。コロナ禍での沖縄への修学旅行は、そういう生徒やご家族の協力のもとで実現できたと思います。
帰京後2週間ほどたって、忘れ物を送っていただいたホテルの方にお礼でお電話した際に、双方の陽性者なしを確認できたことが一番うれしかったです。やっとほっとできました。生徒を支えて下さる方々お一人お一人に感謝したいですし、困難な中でやるべきことを見失わず、感謝すべきことにたくさん気づけた生徒たちのことも誇らしく思います。
コロナ禍の旅行で、“人のために何かすること”の大切さを学んだ
今回の修学旅行の経験を、今後どのように活かしていきたいですか。
コロナ禍で行われた修学旅行では、周りの方々が私たちのために感染予防対策をしてくれたり、周りの友達のために自分で感染予防対策を行ったりしましたが、それらを通して、誰かのために何かをするということを学びました。これからは人のために何かをできるような人間になりたいなと思いました。
コロナウイルスの拡大で大変な状況でしたが、ありがたいことに私たちは修学旅行に行けました。「楽しかった」や「良かった」だけで終わらず、沖縄の人の温かさや美しい景色の魅力などを、周りの友達に教えたり、広めたりしたいです。
修学旅行中の生徒たちの姿はいかがでしたか。
やっとクラスが育ったというか、自宅だけ、教室だけで過ごす様子とは大きく違いました。生徒たちも緊張して沖縄に向かいましたが過ごすうちに、感染症対策の徹底ぶりに身が引き締まるとともに目が輝いていて、自然学習も平和学習も真剣に取り組んでいるのがわかりました。帰ってきてからの事後学習では、修学旅行での体験を細かく豊かに記してくれました。一人ひとり感じたものは違うと思いますが、それぞれがすごく成長できたと感じています。
修学旅行の経験を、生徒たちにどのように活かしてもらいたいですか。
私は引率で何度か沖縄を訪れていますが、そのたびに新しい発見があります。生徒たちにも機会があれば再度沖縄を訪れて、今回とはまた違った視点で学んでほしいと思います。私たち教師の宿題としては、自分たちでテーマを見つけて考えられるよう、こちらももっと沖縄のことを学びながら自主性を育てていきたいと思います。
これから修学旅行で沖縄を訪れる生徒たちにアドバイスがあればお願いします。
私たちが沖縄に到着する前から、修学旅行に携わっている方々は、準備や配慮をたくさんしてくれています。感謝の気持ちを持ちつつ、沖縄を全力で楽しんでほしいと思います。
ドラマ「さとうきび畑の唄」を観て、戦争の怖さを知り、沖縄へ行くのは楽しみな反面、少し怖さもありました。でも実際に行ったら想像していた世界とは違い、戦争の大変さや苦しさはもちろんですが、幸せの在り方、自然の良さなどいろいろなことを学べたので、後輩のみなさんもたくさん感じてほしいです。